鳥取地方裁判所 昭和23年(行)28号 判決
原告 久家庫造
被告 米子税務署長
一、主 文
被告が昭和二十三年二月五日なした原告に対する昭和二十二年所得税確定更正決定の中所得金額九十六万六千百四十円を十一万五千百四十七円と変更する。
被告が同年九月二十七日昭和二十二年分所得税未拂残額六十九万百四十六円四十銭督促手数料五円延滯金滯納処分費六万七千九百七十四円に基いて別紙目録記載の物件に対してなした滯納処分はこれを取消す。
原告のその余の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第二、第四項同旨及び被告が昭和二十三年二月五日なした原告に対する昭和二十二年
分所得税確定更正決定の中、所得金額九十六万六千百四十円を八千円と変更するとの判決を求め、その請求の原因として被告は昭和二十三年二月五日所得税法(本件更正決定通知当時の法律即ち昭和二十二年十一月三十日法律第百四十二号で改正された所得税法以下單に所得税法ということにする)第四十六條第一項に基き原告に対する昭和二十二年分所得税確定更正決定の中で同年分の原告の所得金額を金九十六万六千百四十円と決定し、右決定は昭和二十三年三月十日原告に通知されたので原告は同月二十五日廣島財務局長(現在の名称によれば廣島国税局長)に対し審査請求をし、更に同年五月二十二日同局長に対し右審査請求の内容訂正願を提出したところ、昭和二十四年一月二十六日同財務局長は却つて右所得金額を原決定よりも多く金九十七万五千三百八十円とする旨の決定をなし、その決定はその頃原告に通知された、しかし原告は昭和二十二年中には僅かに同年五月一日から八月十八日までの間映画興行を営み、その間一ケ月二千円合計金八千円の收益を得たにとどまるから被告の右所得税確定更正決定は違法である、よつてここに同決定にかかる所得金額を金八千円と変更すべきことを求め、なお被告は昭和二十三年九月二十七日、右所得金額九十六万六千百四十円に対する所得税額七十四万二千五百五十五円六十銭の内、原告の納付した五万二千四百九円二十銭を控除した残額六十九万百四十六円四十銭、督促手数料五円、延滯金滯納処分費六万七千九百七十四円を取立てるため別紙目録記載の物件に対し滯納処分をしたが、右所得金額が変更せられれば右滯納処分も違法となるから、その取消を併せ求めるため本訴請求に及んだ旨述べ、
被告の本案前の抗弁に対し行政事件訴訟特例法第二條但書第五條第一項第四項を綜合すれば、審査請求のあつた日から三ケ月を経過したときは審査請求を経ないで原処分たる更正決定の取消変更の訴を提起することができ、その場合の訴提起期間は右三ケ月を経過した日から起算して六ケ月以内であると解すべきところ、原告は本件所得金額の決定に対し昭和二十三年三月二十五日審査請求をしたが、三ケ月目である同年六月二十五日までに審査決定がないので同日から六ケ月以内である同年十月十八日本訴を提起したから本訴は適法である。
被告の主張(一)に対し更正決定はそれに対する審査の決定があつても効力を失わないと解すべきで、從つて今なお原処分の取消変更を求める利益がある、
同(二)の一の事実は否認する、被告主張の建物は原告の所有ではなく、昭和十一年以來原告の妻久家佐多子の所有であり、原告は昭和二十二年八月十八日佐多子の代理人として株式会社大劇場にこれを賣却したものであるからこれによる讓渡所得は佐多子に属するものである、しかも右賣却代金は被告主張と異り金三十万円に過ぎない、
同(二)の二の事実も否認する、前述の通り右建物は佐多子の所有であつて同人が賃貸人である、
同(二)の三の事実中原告と妻久家佐多子とが同居していた事実はこれを認めるが、原告が生計の主宰者であつた事実は否認する、仮にそうであつたとしても生計の主宰者であることにより妻に帰属した收入が当然に自己の所得となるいわれはない。なお課税所得金額を個人毎に分割決定すべきは税法の命ずるところであるから佐多子の所得を以て原告の所得とした本件所得金額の決定は違法である、
同(二)の四の事実中被告主張の期間原告が右建物を使用し映画與行を営んだ事実はこれを認めるが、それは所有者たる佐多子から借受けて使用したものである、なお興業による收入金額從つて所得金額を爭う、映画フイルム借費二十九万六千五百円その他諸経費を差引き純收入は多くとも月二千円を超えることはなかつたので四ケ月分都合八千円の所得に過ぎなかつたものであると述べた。(立証省略)
被告指定代理人は本案前の弁論として原告の訴はこれを却下する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求めその理由として原告は本件所得金額の決定を知つた日である昭和二十三年三月十日から六ケ月以上を経過した同年十月十八日本訴を提起したから本訴は不適法であると述べ
本案につき原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として原告主張の通り所得金額の決定その通知審査請求その内容の訂正願の提出審査決定その通知あつた事実、原告主張の通り所得税の一部が原告により納付せられ、その未拂残額督促手数料滯納処分費延滯金を取立てるため滯納処分のあつた事実はこれを認めるがその余の原告主張事実を否認する、
(一)所得税法第五十條所定の審査の決定は一般の訴願の裁決とは異り、原処分の当否を判定するものではなくいわゆる覆審制による新たな行政処分で、從つて審査の決定があるときは当然原処分たる更正決定は失効するものと解すべきであるが、被告のなした本件更正決定中の所得金額に対してはその後昭和二十四年一月二十六日廣島財務局長(現在の名称によれば廣島国税局長)により原告の昭和二十二年度所得金額を金九十七万五千三百八十円とする旨の審査決定がなされ右決定はその頃原告に通知されたから被告のした原決定は当然失効するに至つたもので既に失効した原決定の変更を求める原告の本訴請求は訴の利益を欠くから失当である
(二)仮りに原告が本訴請求につき利益を有するとするも原告は昭和二十二年中に次に述べるような所得を有したものであるから被告の定めた本件更正決定中の所得金額は正当である、即ち
一、第一に資産の讓渡による所得として金八十二万九百五十五円がある(所得税法第九條第一項第七号)即ち原告はかねてから米子市角盤町三丁目百四十五番百十一番百十二番百二十六番百三十九番八十四番家屋番号同町六十六番木造スレート葺二階建事務室劇場一棟建坪三百四坪一勺外二階八十八坪五合九勺附属建物木造トタン葺平屋建湯殿炊事場一棟建坪三坪一合木造トタン葺平家建便所一棟建坪四坪六合五勺の建物、これに附属した電話(三百八十四番)営業用什器を所有しており昭和二十二年八月十八日これらを一括して株式会社大劇場に対し代金二百万円で賣渡しその頃右代金全額の支拂を受けこれを取得したのであるが右建物、電話、什器はいづれも財産税法による調査時期前に原告の取得したものでその建物の財産税法による調査時期における價額は金十八万三千五十円(所得税法第九條第一項第七号第十條第四項)前敍電話の右調査時期における價額は金千五百円右営業用什器の右調査時期における價額は金六万千二百五十円である、よつて右建物電話什器の右調査時期における價額合計二十四万五千八百円にその百分の五である金一万二千二百九十円を加えた金額即ち金二十五万八千九十円が右建物電話什器の取得價額である、なお原告は右賣買に際しその費用として金十万円を支出している、而して右賣買代金二百万円から前敍取得價額及び賣買費用を控除した残額は金百六十四万千九百十円でこれの十分の五は金八十二万九百五十五円となるべくこれが原告の讓渡所得である、
二、次に原告はいわゆる貸家所得として金五万五千七百六十二円を有するものである(所得税法第九條第一項第八号)即ち原告は昭和二十二年一月から同年四月末日までの間前記建物をみづほ文化株式会社に賃貸し賃料合計金七万四千三百五十円を收得した、これより控除すべき必要経費の額は不明であるが少くも右金額の七割五分の純收入があると推測すべきであるから右金額の七割五分即ち金五万五千七百六十二円を貸家の所得とすべきである、
三、仮りに右賣却代金及家賃は原告が取得したものでなく原告の妻久家佐多子が取得したものであつたとしても同居親族中の一人の取得した財産はこれに対し支配的影響力を有する者即ち生計の主宰者の所得とすべきであることは所得税法第十一條第六十七條の趣旨によつても明らかであるところ当時原告と佐多子とは同居している夫婦であり、且つ生計の主宰者は原告であつたから右賣却代金家賃は税法上原告の所得となるものである、又仮りに然らずして右賣却代金及び家賃が税法上佐多子の所得となるものとしても同居親族の納付すべき所得税は所得金額を合算しその総額に対して税率を適用して計算した金額であることは同條第十三條第三項により明らかである、ところが原告は佐多子と同居し且つこれを扶養している者で從つて当然妻佐多子の税金をも支拂わねばならぬ立場にあるものであつて、かかる場合は原告及び佐多子の所得金額を合算して原告の所得金額として決定し、これを基礎として原告の所得税額を定めても何等原告の利益を害するものではないから被告において佐多子の所得を原告の所得に合算し原告の所得として決定することができると解すべきである、
四、最後に原告はいわゆる興業所得として金九万八千六百六十二円を有するものである(所得税法第九條第一項第九号(即ち原告は昭和二十二年五月一日から同年八月十八日までの間前記建物を使用して自ら映画興行を営み、合計金四十二万七千二百三十七円の收入を得た、これより控除すべき必要経費の額は不明であるが少くも右金額の二割の純收入があると推測すべく、從つて右金額の二割即ち金九万八千六百六十二円を興業による所得とすべきである、
以上讓渡所得貸家所得興業所得を合算すれば金九十七万五千三百八十円となり(審査決定の所得金額と一致する)本件更正決定の所得金額九十六万六千百四十円はその見積りがむしろ少きに失する嫌はあつても多きに失するものではない、よつてそれの変更を求める原告の本訴請求は失当であると述べた。(立証省略)
三、理 由
先ず本件所得金額変更を求める訴の適否につき按ずるに被告は原告が本件更正決定を知つた日から六ケ月を経過した後右決定の変更を求める本訴を提起したから本訴は不適法である旨主張するけれども、行政事件訴訟特例法第二條第五條の趣旨を併せ考えれば元來行政処分に対し訴願を提起したけれども訴願の裁決のないままに三ケ月を経過したときにはその時からその後訴願の裁決のあるまでの間は勿論のこと、更に訴願の裁決のあつた日から一年又は訴願の裁決のあつたことを知つた日から六ケ月に達するまでの間はいつでも当該行政処分取消変更の訴を提起することができるのであつて、且つ右にいわゆる訴願の中には税法上の審査請求も含まれると解するを相当とする。これを本件について観るのに被告が昭和二十三年二月五日所得税法第四十六條第一項に基き原告に対する昭和二十二年度所得金額を金九十六万六千百四十円と決定し、右決定が昭和二十三年三月十日原告に通知されたので、原告は同月二十五日廣島財務局長(現在の国税局長)に対し審査請求をしたところ昭和二十四年一月二十六日同財務局長が右所得金願を金九十七万五千三百八十円とする旨の決定をし、右決定がその頃原告に通知された事実は当事者間に爭がなく、原告が右審査請求をしてから三ケ月経過後でしかも審査決定前である昭和二十三年十月十八日本訴を提起した事実は訴状に押されてある受付印に徴し明白であるから、本訴は訴提起期間内になされた適法のものといわねばならない。よつてこの訴を不適法とする被告の主張は採用し難い。次で職権を以て本件滯納処分取消を求める訴の適否につき、按ずるに被告が昭和二十三年九月二十七日原告の昭和二十二年度税金未拂残額六十九万百四十六円四十銭、督促手数料五円、延滯金滯納処分費六万七千九百七十四円を取立てるため別紙目録記載の物件に対し滯納処分をした事実は当事者間に爭がないけれども、右滯納処分に対し原告が国税徴收法(本件滯納処分当時の法律即ち昭和二十二年十二月二十二日法律第二百二十三号を以て改正せられた国税徴收法)第三十一條の二所定の審査請求をしたことを認めるに足る証拠はない。しかし原告が本件更正決定に対し昭和二十三年三月二十五日審査請求をしたが、三ケ月を経過しても審査決定がないので所得金額変更を求める本訴を同年十月十八日提起した事実同年九月二十七日右滯納処分のなされた事実は前記の通りで、かかる場合は滯納処分に対し審査請求をするもこれ亦三ケ月以内に審査決定を得ることができないことが明らかであるから、行政事件訴訟特例法第二條但書にいわゆる正当の事由あるものとして審査決定を経ることなくして、直ちに滯納処分取消の訴を提起することができると解すべきである。從つて本件滯納処分取消の訴も適法であるというべきである。
よつて進んで本案につき審究する。
被告は財務局長の審査の決定により当然原処分たる更正決定は失効したから原告は本件更正決定の変更を求める訴につき利益を有しない旨抗爭するから、この点につき按ずるに(1)行政事件訴訟特例法第二條本文が「行政廳の違法な処分の取消又は変更を求める訴はその処分に対し法令の規定により訴願審査の請求異議の申立その他行政廳に対する不服の申立(以下單に訴願という)のできる場合にこれに対する裁決決定その他の処分(以下單に裁決という)を経た後でなければこれを提起することができない」旨定めていることに徴すればその反面解釈として右規定は所得税法における審査の決定を経た後は原処分たる更正決定に対する取消変更の訴の提起を許す趣旨で、從つて又原処分は失効しないとする趣旨であると解しなければならない。蓋し行政事件訴訟特例法の右規定にいわゆる「審査の請求」とは主として所得税法をも含む税法上の審査の請求を指すものと解すべきであるからである。(2)いつたい所得税法の審査決定の性質は如何なるものであるか、即ち審査決定は原処分の当否を審査し決定するものであるのかそれとも原処分とは関係なく別個の調査により決定すべき独自の処分であるのか、換言すれば続審的であるかそれとも覆審的であるかというのに右審査決定通知当時の所得税法中審査決定に関する第四十八條乃至第五十一條の規定とその当時の国税徴收法中同様事項に関する第三十一條の二乃至第三十一條の四の規定とは附随的の事項を除くほか、同一の文言であるから所得税法上の審査決定の性質と国税徴收法上のそれとの間に統一した解釈をとるのを相当とする。ところが国税滯納処分は事実行爲を包含する行政処分であつて「審査」という性質をもつものではないから国税徴收法上の審査決定において審査の対象となるものは原処分の当否であると解するよりほかはない。そうすると所得税法上の審査決定においても亦審査の対象となるのは原処分の当否であり、原処分とは関係なく別個の調査によつてなす独自の処分ではないとみるのが自然の解釈であるといわねばならない。從つて審査決定により原処分が正当とされたときは審査請求は棄却せられ原処分の効力は維持されるものである。(3)加うるに原処分が賦課処分である場合に若し審査決定の結果原処分が失効するとせば、原処分に基いてなしている滯納処分の運命につき何等の特則もないから右滯納処分も亦失効すると解せざるを得ない不都合を生ずるに至るであろう。この点からみても前記の通り原処分は失効しないと解釈せねばならぬのである。これを本件につき観るに廣島財務局長が審査決定において原処分で定めた所得金額よりも多く、所得金額を定めている事実は前記の通りであるが、これは右審査決定の文言様式にかかわらず原処分で定めた所得金額の限度内においては審査請求を棄却し、且つその金額を超える部分については財務局長の固有の代執行権に基き原処分の金額を補充附加したもの(右審査決定通知当時の規則即ち昭和二十二年十月二十日政令第二百二十一号を以て改正された所得税法施行規則第六十五條第一項第一号)と解すべきであつて、從つて原処分たる本件更正決定の効力は今なお存続しているというべきである。(ちなみに本件更正決定の所得金額が確定判決により変更された場合には審査決定の所得金額中原処分と同額の部分については勿論財務局長の代執行権に基き補充附加された部分についても、判決の拘束力が及ぶと解すべきである。蓋し右補充附加部分を存続することは判決の内容と牴触するからである。)よつて本件更正決定の変更を求めるにつき原告は利益を有するというべきであるからら、その利益なしとする被告の抗弁は採用し難い。
よつて次に本件更正決定の所得金額が正当であるかどうかにつき按ずるに元來課税所得金額に関する取消変更訴訟においては所得が原告にありと主張する被告たる行政廳においてその事実を立証する責任を負うものと解すべきである。そこで被告がその事実につき立証をつくしているかどうかを逐次檢討することにする。
一、被告は米子市角盤町三丁目所在家屋番号同町六十六番事務室劇場一棟ほか附属建物二棟、及び附属の電話並びに什器は原告の所有であつたところ原告がこれを一括して昭和二十二年八月十八日株式会社大劇場に賣却し代金を受領した旨主張するから、この点につき按ずるに被告の提出援用にかかる全資料を綜合するも右建物、電話什器が原告の所有に属していた事実その株式会社大劇場に対する賣主が原告であつた事実を認めるに足らない。却つて成立に爭のない甲第二号証の二同第三号証原告本人の供述により眞正に成立したと認めうる同第四号証証人久家佐多子の証言、原告本人の供述を綜合すれば前記建物は昭和十一年中原告の妻久家佐多子において自己の貯金親戚からの借入金を合して二千数百円とし、これに原告から借入れた千円足らずの金円を合して三千五百円の金をこしらえ、これを代金として昭和劇場から買受けたもので、右代金は大半が佐多子の出金にかかるものであつたので、当時原告もこれを佐多子の所有とすることに異議なく、かくて佐多子名儀に登記がなされたもので佐多子は單に登記名儀人であつたのにとどまらず、その実質上の所有者であつた事実昭和二十二年八月十八日原告が佐多子を代理して右建物を訴外株式会社大劇場に賣却したもので、賣主は原告ではなく佐多子であつた事実を認めるに十分である。そうするとその賣買代金の所有権も佐多子に帰属したものといわなければならない。尤も成立に爭のない甲第二号証の一によれば原告は昭和二十二年度の所得の申告に際し、右建物を前記大劇場に讓渡したことによる所得をも自己の所有として申告し且つ審査請求をするに当つても当初は單にその金額の相違のみを不服の理由としていた事実を認めうるけれども、税法に通曉しない一般人においては同居親族の所得をも自己の所得に合算して自己の所得金額が決せらるべきものと誤解している場合もあり得るから、右認定の事実を以て直ちに右建物の賣主が原告であつたことの証拠とはなし難く、又成立に爭のない乙第六号証の一乃至三によれば右建物をみづほ文化株式会社に賃貸した賃料の領收書に原告が自己の名儀の署名をしている事実を認め得るけれども、これは原告が妻所有の建物に対し夫の收益権を行使し、自己の名で家賃を收得した結果であると認むべきこと後述の通りであるからこれを以て右建物が原告の所有に属していたことの証拠となし難い。又証人久家佐多子の証言によれば原告が佐多子と同棲し世帶主として一家を主宰していた事実を窺えるけれども、その事実によつても右建物の所有権が原告に属していたとは認め難い。從つて原告が右賣買代金を取得したことを前提とし建物讓渡の所得が原告に属するものとする被告の主張は採用することができない。
二、次で被告は原告が右建物を昭和二十二年一月から同年四月末日までみづほ文化株式会社に賃貸した賃料七万四千三百五十円を收得した旨主張するからこの点につき按ずるに、その頃は旧民法施行当時であるところ原告が佐多子の夫であることは前認定の通りであつて、且つ成立に爭のない乙第六号証の一乃至三公文書であることに徴し成立を認め得る乙第七号証(田所竜一に対する聽取書)証人久家佐多子の証言を綜合すれば原告が旧民法第七百九十九條第一項による夫の收益権を行使し、右建物を昭和二十一年九月から昭和二十二年四月まで訴外みづほ文化株式会社に賃貸し自己の名で家賃全部の支拂を受け收得した事実昭和二十二年一月から同年四月までの間に收得した家賃は金七万四千三百五十円である事実を認めることができる。而して原告の純收入がその七割五分であることは被告の自認するところであるから右金額の七割五分即ち金五万五千七百六十二円を以て原告の貸家による所得と認めることができる。
三、次で被告は仮に右賣買代金は原告が取得したのではなく、佐多子が取得したのであつたとしても同居親族の中の一人の取得した財産はこれに対し支配的影響力を有する者、即ち生計の主宰者の所得とすべきであることは所得税法第十一條第六十七條の趣旨によつても明らかであるところ原告と佐多子は同居している夫婦であり、且つ生計の主宰者は原告であつたから右賣買代金は原告の所得となるものである旨抗爭するけれども、所得税法においては收入の帰属した者即ち新たに増加した財産の所有権を取得した者を以てその收入についての所得者とする趣旨であること同法第二條第九條第一項第七号第九号を綜合すれば明白であつて、生計の主宰者に收入にかかる金品の所有権が帰属しないのに当該主宰者が收入につき所得者となる趣旨の特則は存しない。同法第十一條は公債社債又は無記名株式についてのみの特則「同法第六十七條は同族会社についてのみの特則」であるからこれを他の場合に類推することのできぬのは勿論である。よつてこの点に関する被告の主張は採用し難い。次で被告は同居親類族の納付すべき所得税は所得金額を合算しその総額に対して税率を適用して計算した金額であることは同法第十三條第三項により明らかであるところ、原告は佐多子と同居し、且つこれを扶養している者で、從つて当然妻佐多子の税金をも支拂わねばならぬ立場にあるのであつて、かかる場合は原告及び佐多子の所得金額を合算して原告の所得金額として決定し、これを基礎として原告の所得税額を定めても何等原告の利益を害するものではないから被告において佐多子の所得を原告の所得に合算し原告の所得として決定することができる旨抗爭するから、この点につき按ずるに所得税法においては所得金額は税金算定の基礎をなすものであるから各個入について各別に定めらるべきものであつて、世帶について定められるべきものではない。(所得税法第一條第一項第二條第九條第一項)又ある個人の所得金額を決定するに当り同居親族の所得金額を合算することを許す旨の特則はない。所得税法第十三條第三項の規定は既に各個人別に定められた同居親族の各所得金額に基き、その各税額を算出する過程において所得金額を合算して税率を適用すべき趣旨であつて所得金額の決定はあくまで個人別になされねばならぬのである。然るに本件においてもし被告が原告の所得を決定するに当り、同居親族たる妻佐多子の所得金額を合算して決定したとすれば原告は佐多子の負担すべきであつた税額を自ら負担する結果となり(同法第十三條第三項)自己の権利を害されるに至るからこのような決定が違法であることは言をまたないところである。なお原告が佐多子を扶養して居るからといつてその結果として直ちに原告が佐多子に代つて納税すべき義務を負うに至るという法的根拠もない。よつてこの点に関する被告の主張も排斥せざるを得ない。
四、次で被告は原告が昭和二十二年五月一日から同年八月十八日までの間右建物を使用し映画興行を営んだ旨主張し、且つその事実は原告の認めるところであるからその間の收入につき審究するに成立に爭のない甲第五号証の一によれば右興行期間内における映画入場料金は合計金三十五万五千八百八十五円であることを認め得べく、この認定に反する甲第五号証の三はその成立を認むべき資料がないだけでなく、その記載内容が当裁判所において信用し得ないところである。その他右認定をくつがえすに足る何等の資料もない。ところが弁論の全趣旨により成立を認めうべき甲第五号証の二によれば右期間内における與行のために原告が大映株式会社に対し、映画フイルムの借賃として金二十九万六千五百円を支拂つたことを認め得べく、これが映画興行に必要な経費というべきは勿論であつて、且つこれ以外に経費のかかつたことについては原告の提出援用にかかる証拠によるものこれを認めるに足らない。よつて所得税法第九條第一項第九号により右興行收入金三十五万五千八百八十五円から右経費二十九万六千五百円を控除し、残額五万九千三百八十五円を以て興行所得金額と認むべきである。
而してこれ以外に何等かの他種の所得が原告に生じた事実については、被告の主張立証しないところであるから結局原告の昭和二十二年度における総所得金額は前記貸家所得と興行所得とを合算した金十一万五千百四十七円を認むべきである。そうすると原告の同年度所得金額を金九十六万六千百四十円と確定した被告の本件更正決定は違法であるから、その変更を求める原告の本訴請求は被告の決定した所得金額を金十一万五千百四十七円と変更する限度において正当として認容すべく、その余の請求は失当であるからこれを棄却すべきである。
次で本件滯納処分取消請求につき按ずるに前記所得金額を金十一万五千百四十七円とすると右所得金額に基く所得税額は多く見積つても右所得金額の百分の八十五(所得税法第十三條所定の税率の中最高のもの)即ち金九万七千八百七十四円九十五銭を超えるものでないことは明らかであるから所得税額の決定中少くも右金額を超える部分は当然に遡つて無効となる筋合である。ところが本件滯納処分は原告の昭和二十二年度税金未拂残額六十九万百四十六円四十銭及びこれに対する督促手数料滯納処分費延滯金を取立てるためなされたものである事実は当事者間に爭がないから本件滯納処分はその基本である税金の額を誤認してなした違法な処分であつたという結果になるものであつて、從つてその取消を求める原告の本件滯納処分取消請求は正当であるというべく、右請求はこれを認容すべきである。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二條但書を適用し、主文の通り判決した。
(裁判官 大賀遼作 石見勝四 柚木淳)
(別紙目録省略)